藍藻バイオフィルムの草原
Tardigrades

藍藻バイオフィルムの草原

干潟の泥面すれすれに目線を置くと、琥珀色の細胞外多糖体(EPS)が蜂蜜を塗り重ねたような峡谷の壁となって四方に立ち上がり、その足元には下方から滲み上がる黄金色の透過光が各ゲル状の柱をステンドグラスのように内側から照らし出している。暗い青緑色のオシラトリア・シアノバクテリアの糸状体が太い縄のように絡み合いながら毛細水路を渡り、EPS基質へと碇を下ろす一方、散在するコックス型コロニーが暗翠色のドーム状に盛り上がり、斜めに突き刺さった珪藻の殻が虹彩光のハローをまとって古代の骨のように地平に浮かぶ。前景では、体長200〜600マイクロメートルほどのクマムシが頭部を束状の糸状体へと深々と押しつけ、口球が薄い表皮越しにリズミカルに収縮するのが透けて見え、前脚の鉤爪がEPS稜線に食い込んで白い光点をきらめかせながら全身を固定している。後半身は筋肉の緊張で弓なりに反り上がり、残る三対の脚がゲルに浅い溝を刻みながら踏みとどまり、背側の表皮が逆光を受けて半透明に輝き、内臓の影が体軸に沿って淡く浮かび上がる。この牧草地全体が、目に見えない粘弾性の流体力学と毛細管力に支配された世界であり、重力はほとんど意味を持たず、表面張力と粘性抵抗こそがここでの物理法則のすべてである。

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